Avaloncity Fortune Land

不肖「信頼出来ない語り手」明智紫苑のオリジナル小説ブログです。当ブログではライフワーク『Avaloncity Stories』第一部の作品を載せていきます。

あいつは「愚者」なんかじゃない ―司馬昭―

「もし仮に諸葛亮が生きていたとしても、この男を補佐していつまでも安泰にしておくのは不可能だったさ。ましてや姜維ごときではなおさらだよ」 とんでもない。 あの男は食わせ者だ。 表向きは能天気にヘラヘラ笑みを浮かべていたが、目は笑っていない。なん…

二人もいらない ―蒯通―

楽毅将軍、我が敬愛する稀代の名将。二人といない、いや、他に比肩する者など「いらない」「いてはならない」お方。 そう、あの小僧、気に食わない。 私はあの男に近づいた。 淮陰 ( わいいん ) という片田舎でくすぶっていた、あの小賢しい若造だ。ちょっ…

薤露行 ―田横―

「皇帝は、私の顔を見たいだけなのだ」 彼は、自分の従者としてついて来た二人の食客に語った。 「平和のために」命を絶つ。なぜなら、自分たちの存在が戦乱の世を再び呼ぶ事になりかねないからだ。 「犠牲は私一人で十分。他の者たちを巻き添えにはしたくな…

銅の匂い ―范蠡―

彼は、かつての主君 勾践 ( こうせん ) を思い出した。 あの王は、ある意味類まれな「正直者」だったのかもしれない。 他人に感謝するのが心底から大嫌いな男。人が他人に対して感謝の気持ちを持ち続けるのは、相手に対して頭を下げ続ける事に他ならない。…

たった一人の「極楽」 ―細川忠興―

彼は延々と歩き続けていた。雲一つない青空の下、一面に広まる花畑の中を、彼は黙々とさまよっていた。 ここは極楽なのだろうか? いや、とんでもない。「何だ、地獄と変わらぬではないか?」 珠 ( たま ) のいない世界なんて、極楽でも何でもない。今頃珠…

朔北に移り咲く名花 ―王昭君―

あの頃、私は閉ざされた庭にいた。 後宮。たった一人の男だけのために作られた、「生きた人形」たちの倉庫。私もその「人形」の一人だった。 漢の宮女としての暮らしは退屈なものだった。他の女たちとの、名ばかりの友人関係。「巧言令色、 鮮 ( すく ) な…

愚者の微笑み ―劉禅―

あの男、この私を呉王夫差や燕の恵王と同類扱いしていたか。「あの男は 簒奪 ( さんだつ ) の機会をうかがっていたのですよ。あの男が死去したのはつまり、全ての人にとって喜ぶべき事態であります」 なるほど、我が父と比べて「凡庸」な私にすら「逆鱗」…

『恋愛栽培』後書き

この小説『恋愛栽培 ―A Perfect Sky―』は、元々アメブロで初めて書いた連載小説をいくつかのブログに何度か転載・加筆修正したものです。この話は、私が以前見た夢が元になっています。 この話は、どことなく姫野カオルコ氏の小説『受難』を連想させるシチュ…

『恋愛栽培』花川加奈子の周辺

花川(蓮華院)加奈子 ( はなかわ/れんげいん かなこ ) …愛称は加奈。作家志望の平凡な女性。後にプロデビューする。 蓮華院秀虎 ( れんげいん ひでとら ) …蘇った戦国武将。愛称はヒデさん。加奈子の夫となる。書店員。実は「最後の斉王」 田横 ( で…

『恋愛栽培』終章

「いい天気だ。安産日和だな」 「早く赤ちゃん見たいなぁ~」 呂尚はブライトムーンと一緒に、産婦人科のロビーにいた。もうすぐ、秀虎と加奈子の息子が生まれるのだ。 秀虎は、分娩室で加奈子の出産に立ち会っている。これは、かつての秀虎の時代では考えら…

『恋愛栽培』21.A Perfect Sky

かつて人間は二種類いた。 一方は地上で産まれる「陸の子」、そしてもう一方は海から産まれる「海の子」だった。 田常 ( でん じょう ) という名の男がいた。彼は中国春秋時代の大国斉の宰相だった。 「ほほう、今度は女の子、しかも一度に二人も産まれた…

『恋愛栽培』20.ジューンブライド

中国南部、 浙江 ( せっこう ) 省X市。果心は借り物を返すために、ここに来た。彼は日本人「 井桁毅 ( いげた つよし ) 」名義のパスポートで、飛行機に乗って中国に上陸した。 彼の魔力ならば、飛行機にただ乗り出来るハズだが、今回はあえて「一般人…

『恋愛栽培』19.魔を断つ剣

「ごちそうさま!」 加奈子たちの今日の夕食はポークカレーだ。これは秀虎の好物だ。彼ら四人は、茶の間でバラエティー番組を観ていた。秀虎は言う。 「どうもお笑い番組というのは、芸人同士の派閥争いの匂いがするのだな」 倫は言う。 「確かに雑誌とかネ…

『恋愛栽培』18.毒の系譜

「蓮華院秀虎、19XX年5月5日、神奈川県X市生まれ。最終学歴は、倫と小百合の大学の法学部」 呂尚は、秀虎の「現代人」としての肩書きの工作をしていた。市役所などでの市民のデータベースには、すでに秀虎の存在が刻み込まれている。住民票なども出来上が…

『恋愛栽培』17.二人の新世界

目覚めたのは昼近く。加奈子は秀虎に抱きしめられながら眠っていた。たくましい体が温かかった。 夢ではなかった。体の感覚やその他諸々の状況からして、現実だ。加奈子は顔が真っ赤になった。まさか、そんな事になったなんて…。 「お前が元の加奈の記憶を持…

『恋愛栽培』16.その時、世界は変わった

「あたし以外の女なんていらない。この世に女は、あたし一人だけで十分」 凛華は母親の家に娘を預けている。母親は、凛華を性的虐待していた再婚相手とすでに離婚しており、今は別の男と暮らしている。 凛華の母は、娘に対して同じ「女」としてのライバル意…

『恋愛栽培』15.闇の中の炎

「何だ!?」 突然、加奈子とブライティを囲んで走り回っていた暴走族たちが炎に包まれた。 「ギャー!!」 「何だ!?」 「放火だ!」 「焼け死ぬ~!!」 「ひぇえぇぇ~!?」 二人の乙女たちを囲んで走り回っていた暴走族どもは、炎に包まれた。そこで、誰かが叫ん…

『恋愛栽培』14.背水の陣

秀虎は胸騒ぎがした。体の芯が、いや、全身が熱い。 「加奈…?」 加奈子は、仕事帰りに買い物をしてから戻ってくると言った。しかし、今日は遅い。加奈子が戻って来ない限り、部屋の照明は使えない。そう、部屋は真っ暗だ。それだけに、なおさら不安が増す。…

『恋愛栽培』13.乙女の危機

「この人は、私になりたかった女性です」 問題のブロガー「あすかももこ」は花川加奈子という女について、傲慢にもこう言い放った。何て、自己評価が高過ぎる発言なのだろう? こんなナルシスティックな発言なんて、マトモな神経の人間ならば、恥ずかしくて…

『恋愛栽培』12.その女、淫猥につき

「ねぇ、あんた」 「何だ、お前?」 「そろそろ『あの女』に仕掛けてよ」 女は、男の体にしがみつきながら、男の背中に爪を立てた。男は元大手暴走族のメンバーだった。長い茶髪を乱しているその全身には、派手な刺青が彫られている。明らかに、お互いに「堅…

『恋愛栽培』11.真剣な遊び

「さて、秀虎殿、どこまで回復しているのかな?」 その男は、加奈子の家の前に立っていた。男は、秀虎の水槽がある部屋の窓に向かった。彼が指を鳴らした瞬間、姿が消えた。 「久しぶりだな?」 「貴様は、果心…!?」 果心と呼ばれた男は、窓に手も触れずに部…

『恋愛栽培』10.脳と子宮

3月3日、桃の節句。かつて祖父が初孫の加奈子のために買ってくれたひな人形があるが、一人暮らしの彼女にとっては七段飾りという飾り付けが無理なので、今は押し入れにしまっている。代わりに、ある雑貨屋で買った小さなひな人形を茶の間に飾っている。 今…

『恋愛栽培』9.甘い腐敗臭の女

秀虎はラジオを聴いている。「寂しくないように」という、加奈子の心遣いだ。普段聴いているFMラジオ局は、様々なジャンルの音楽を流すので、退屈はしない。 今流れているのは、BONNIE PINKの「A Perfect Sky」。加奈子が好きな曲だ。 「完璧な空」。自分も…

『恋愛栽培』8.おいしいひととき

「真一伯父さん、ブログで『黄金のリンゴ』の画像を載せていたけど、食品用のメタリックスプレーだなんてねぇ…?」 「ふむ、秀吉辺りが好みそうだな」 なるほど、慎重第一で健康オタクの家康なら、まずはそんな怪しい食材など拒むだろう。ただ、「ネズミの味…

『恋愛栽培』7.実りつつある果実

「はい、開けて」 「あ~」 加奈子は丁寧に秀虎の歯を磨いている。彼との「同棲生活」を始めてから、祖母の歯ブラシの代わりに彼の歯ブラシがある。 吐いた泡や水を受け止めるための洗面器と、口をゆすぐための水が入ったプラスチックのコップ。 倫の母親、…

『恋愛栽培』6.恐るべき借り物

女が病床に横たわる。男は彼女の手を握りしめる。隣には医者がいる。周りにも後ろにも何人かいる。 「私、死ぬのは怖くはありません。ただ、あなたを残していくのが心配です」 「加奈…!」 「どうか泣かないで。またいつか、あなたに逢えるはずです」 そして…

『恋愛栽培』5.二人の音楽

今日はクリスマスイヴだ。現代の日本においては、クリスチャンでなくても特別な日になっているが、結局は商業主義あっての「特別な日」だ。今夜の加奈子は、祖母が亡くなってからは、たった一人で過ごす事になる。そう思っていた。テレビであまり面白くない…

『恋愛栽培』4.夢と妄想

水槽の中で、根っこが揺らめく。根っこは、徐々に成長しつつあった。 「加奈…お前は本当に覚えていないのか?」 秀虎の表情に憂いがあった。 太公望呂尚との約束。本来の肉体を取り戻し、かつての妻を再び愛する。そして、今の自分の世話をしてくれる加奈子…

『恋愛栽培』3.二人暮らし

《 アスタルテ ( Astarte ) 》…古代フェニキアの女神。愛と美と豊穣を司る「世界の真の統治者」。ある神との争いに敗れて立場を失ったが、それでもなお、女神としての力と誇りを保っている。「シンボルフラワー」は百合。 《 井桁信 ( いげた しん ) 》……

『恋愛栽培』2.驚きの出会い

「お待たせ~」 12月10日、今日は花川加奈子のささやかな誕生日パーティーが開かれる。彼女は二人の幼なじみと一緒に、駅前のホテルのケーキバイキングで盛り上がっていた。内気な彼女は友達が少ないが、この同学年の二人は別格であり、貴重な親友である。彼…